定時制高校の科学部が学会で発表するなんて、あり得ないのでは?と思ったら、実際にあったことを元に作られた話だった。
作者自身が理系の人というだけあって、研究内容がリアルでおもしろかった。
なんといっても、いろいろな環境にいる人が通ってくる定時制高校で、「やりたい」意思を持って集まったわけではない科学部の設定がいい。
部員は、金髪で文字が読めない発達障害を持つ岳人、家族でフィリピン料理の店を切り盛りするアンジェラ、起立性調節障害の病をきっかけに不登校になり定時制高校の保健室で過ごしていた佳純、経営していた町工場を廃業し念願の高校に通う長峰。
4人は、大学で研究をしながら定時制の高校で教師をしていた藤竹先生の目利き(?)で選ばれ、科学部の一員に加わり、火星のクレーターを再現する研究にトライすることになる。
4人それぞれのエピソードに加え、藤竹先生のエピソード、全日制の生徒(要(かなめ))のエピソードと、すべてがとても興味深かった。
一番良かったのは、保健室に通っていた佳純のエピソード。
NASAの火星探査車オポチュニティが振り返って撮った”長く続く2本の轍”の写真は、当初の活動期間の限界が3カ月だろうという予想をはるかに上回る14年という期間を火星でひとりでさまざまな困難を乗り越え粛々と作業を続けた軌跡ともいえる。
佳純は左腕のリスカの跡をオポチュニティの轍になぞらえて考える。
だが次第に、地球の仲間(研究者)たちの協力を得て長い期間を活動できたオポチュニティのように、自分も科学部の仲間と共に少しずつ前へ進んでいこうと前向きになるのだ。
さまざまな悩みを抱えた定時制高校生たちが、前向きになっていく姿を見て、とてもほっこり温かい気持ちになる。
そもそも、この定時制高校で科学部を創設するというのも、藤竹先生の実験だった。
学歴や肩書に弱い日本人に対する反発。
最後には、藤竹先生のしてやったりな結果にも、科学部員以上にわくわくさせてもらった。
とてもすてきな物語だ!