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2024/10/29

宙(そら)わたる教室/伊予原新


定時制高校の科学部が学会で発表するなんて、あり得ないのでは?と思ったら、実際にあったことを元に作られた話だった。

作者自身が理系の人というだけあって、研究内容がリアルでおもしろかった。
なんといっても、いろいろな環境にいる人が通ってくる定時制高校で、「やりたい」意思を持って集まったわけではない科学部の設定がいい。
部員は、金髪で文字が読めない発達障害を持つ岳人、家族でフィリピン料理の店を切り盛りするアンジェラ、起立性調節障害の病をきっかけに不登校になり定時制高校の保健室で過ごしていた佳純、経営していた町工場を廃業し念願の高校に通う長峰。
4人は、大学で研究をしながら定時制の高校で教師をしていた藤竹先生の目利き(?)で選ばれ、科学部の一員に加わり、火星のクレーターを再現する研究にトライすることになる。
4人それぞれのエピソードに加え、藤竹先生のエピソード、全日制の生徒(要(かなめ))のエピソードと、すべてがとても興味深かった。

一番良かったのは、保健室に通っていた佳純のエピソード。
NASAの火星探査車オポチュニティが振り返って撮った”長く続く2本の轍”の写真は、当初の活動期間の限界が3カ月だろうという予想をはるかに上回る14年という期間を火星でひとりでさまざまな困難を乗り越え粛々と作業を続けた軌跡ともいえる。
佳純は左腕のリスカの跡をオポチュニティの轍になぞらえて考える。
だが次第に、地球の仲間(研究者)たちの協力を得て長い期間を活動できたオポチュニティのように、自分も科学部の仲間と共に少しずつ前へ進んでいこうと前向きになるのだ。

さまざまな悩みを抱えた定時制高校生たちが、前向きになっていく姿を見て、とてもほっこり温かい気持ちになる。

そもそも、この定時制高校で科学部を創設するというのも、藤竹先生の実験だった。
学歴や肩書に弱い日本人に対する反発。
最後には、藤竹先生のしてやったりな結果にも、科学部員以上にわくわくさせてもらった。

とてもすてきな物語だ!



2024/10/12

木曜日にはココアを/青山美智子

 





12編の短編集。

それぞれの物語の主人公が、リレーのようにつながっている。

ひとつひとつの物語は、とても優しく静かに進む。

小説を書く上での、作者・青山さんの決め事は、物語の中で人を死なせないことだそうだ。

だからなのか、この全体的なオブラートに包んだような雰囲気は。

かと言って、幻想的なのではなく、そうだなあ、眠っている時に見る「夢」のような、現実にありそうな出来事だけど現実ではない、みたいな。

なんだか上手く言えない。


青山さんの小説は、中学入試問題に使用されることが多いと聞いて、なんとなくわかる気がした。

平易な文章の中にいろいろ含まれているものが多くて、小学生に出題するのにピッタリだ。

でも、大人の私、いや、ひねくれた私が読むと、少々説教くさいというか、正論過ぎるというか…

本の構成も作り過ぎで、カッチリ型にハマった感じがする。


一つ一つ短いからテンポ良く読めるし、読後感も悪くはないけど、今一歩、私の心には響かなかった。

青山さんにとってはこの本がデビュー作なので、そのうち、もう少し最近の物語も読んでみようか。

2024/10/09

金色機械/恒川光太郎

 



時は豊臣秀吉のころ。

得体の知れない金ピカのスーパーボディを持つ金色様が、手のひらで安楽死をさせることができる遥香の産みの親の仇討ちに協力する物語。

二人の周りの人々の人生を絡めながら、登場人物のそれぞれの目線で語る壮大な物語となっている。


まあまあ面白かったが、長い。

『金色様』が都合よくスーパーマンなのが、ちょっとだけ残念。


恒川光太郎氏の小説はこれで3作読んだ。

今回、初めての長編。

短編の方が好きかなあ、今のところ。





2024/09/25

俺たちの箱根駅伝/池井戸潤

 


駅伝の本選出場権をかけた選考会で惜しくも敗退した大学の主将・青葉が、学生連合チームに選ばれ本選に出場することになった。

予選会では自分の不調のせいでチームとしての出場権を取れなかったことや、今までの連合チームでは考えられない目標を掲げ、選手から信頼を得られない新監督・甲斐との関係、バラバラでひとつになれないチームに思い悩む青葉。

しかし合宿を通して徐々に甲斐と選手たちの思いがひとつになっていく。

この物語は、選手側からの視点と、もうひとつ、駅伝を放送するテレビ局側からの視点で進んでいく。

学生連合チームの成績は総合順位も個人の記録も「参考記録」にしかならないせいか、これまで良いとは言えない結果しかでていなかった。

なので甲斐監督が目標「総合順位3位以内」を発表しても、テレビ局も含め報道陣は見向きもしなかった。

そして本番、学生連合の怒涛の走りが始まり、大慌ての生放送となる。


さすが池井戸潤、最初から最後までわくわくどきどき聞かせてくれる。(Amazon Audibleだったので・笑)
絶対、ハズさないね、この人は。
安定感抜群で面白かった。


2024/09/24

風の古道/恒川光太郎

 



『夜市』に同時収録されている短編。

7歳の時に行ったお花見で迷子になり、未舗装の人っ子一人いない不思議な一本道を通って家にたどり着く。

12歳になった時、再び、その道を確かめに友達と入り込む。

が、そこは人間は入ってはならない異世界の道だった。


もうね、どっぷりとこの不思議な世界に浸ってしまう。

頭の中で映像を思い浮かべられるっていうか、夢を見ているみたいな感じ。

この異世界のいろいろな決まり事がとてもユニークだしよく考えられていて、どういう発想で思いつくのか知りたいね。

『夜市』『風の古道』で、恒川ワールドに完全にハマった。

久しぶりに好きだと思える作家に出会えてうれしい。

2024/09/23

ぼくのメジャースプーン/辻村深月


 

「ぼく」は小学4年生。

不思議な「力」を持っている。

ある日、クラスで飼っていたうさぎが愉快犯によって無惨に殺され、風邪で熱を出した「ぼく」の代わりに朝当番に行ってくれた「ふみちゃん」が第一発見者となってしまう。

「ふみちゃん」は器量こそ良いとは言えないが、クラスを引っ張る明るく元気で優秀な女の子。

しかし、事件を境に引きこもりになってしまった。

それまで「ふみちゃん」に助けられてきた「ぼく」は、自分に備わる「力」を武器に、犯人に立ち向かう決心をするが…


人間とそれ以外の生物の死の重さの違いや、犯罪心理、自分と他人の関わりなどなど、小学4年生にはちょっと難しい、いや、大人にだって難しいテーマを考えさせられる。

「ぼく」と同じ「力」を持つ親戚のおじさん秋山先生(大学教授)が導いてくれるのだが、正直言って難しい。

おまけに「力」の設定がややこしい、と感じるのは私だけ?

数学(必要条件・十分条件)を勉強しているような気持ちになってしまい、少々物語に集中出来なかった。

先が気になって一気に読みたいけど突っかかる、みたいな小説。笑

単に、私のアタマが着いて行けてないだけなのかもしれないが。

「ぼく」は小学4年生。

10歳って、こんなに複雑な考え方をするかなあ?

しかも男の子だし、もっと、幼くて単純思考のような気がするけれど。

そこのところがちょっとね、無理があるような気が無きにしも非ず。




2024/09/13

夜市 / 恒川光太郎






夜市は様々なものが売られている異世界の市場。

買い物をしないと元の世界に帰れない。

大学生のいずみは、高校時代の同級生裕司に誘われて、よくわからないまま夜市に出かける。

そして、裕司が子供の時に、弟を人攫いの店に買い物代金の代わりに渡して、自分だけ異世界から戻ったことを知る。

その日、裕司は弟を連れ戻しに来たのだった。

兄弟は再会するのだが…。


なんとも不思議な物語であっという間に引き込まれた。

久しぶりに、もっと読みたいと思わせてくれる作家に出会った気がする。


この本には、もう一つ物語が収録されている。

楽しみ。


2024/08/20

ある男/平野啓一郎


 

自分の夫が、まったく別人になりすましていたのだとしたら…。
そのことを夫・大祐が亡くなってから知った妻・里枝は弁護士の城戸に夫が本当は誰なのか調査を依頼する。
なんと、大祐は戸籍を交換して他人の人生を生きていたのだ。

この調査を引き受けた城戸は在日3世で、心の奥底で自身の出自を気にしていたことに、「原誠(大祐の本名)」の人生を追っていくうちに、気がつき苦しむ。

他人として生きたいと思うのって、普通では考えられない。
だが、殺人を犯してしまった実父を持つ誠は、同じDNAを受け継ぐ恐怖を感じ、自殺未遂もし、結局あかの他人の戸籍でひっそりと生きる。
そこで出逢った里枝との束の間の幸せ。

朝鮮人だが日本人として生きる城戸は、誠の人生に自分の人生を重ね、最後は、気持ちの整理がつき心穏やかになって行く。


———-

平野啓一郎氏の小説は初読みだと、ついさっきまで思っていた。

しかし、このあと読んだ若林正恭(オードリー)氏の『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』の中で「分人」という言葉が出てきて、はて?となった。

奥付けのところに、平野啓一郎氏の著書『私とは何か「個人」から「分人」へ』からの引用とある。

私はこの本は読んでいないが、「分人」は知っている!
「分人」えーっと、確か、『空白を満たしなさい』に出てきたよね、って思い出し、調べたら平野氏だった!

いやだ〜、初読みじゃないじゃん。
著者名が全く頭に入っていなかった〜。

そうわかってみれば、『ある男』も、『空白を満たしなさい』もとても着想が面白いし、人間の内面をするどく描いていて、話はちがうけれど、大きな枠が似ているというかんじ?
それに、最初はぐいぐい興味深く読ませるけれど、途中から哲学的な感じも入って来て、少々硬いというか、理屈っぽいというか、そんなところも似ている。
すこし失速感があるんだよなあ。
最後までぐいぐい読ませてくれたら、最高なんだけど。






2024/07/27

同志少女よ、敵を撃て/逢坂冬馬



主人公・セラフィマ(16歳)は母とともに猟をしてモスクワ近郊の小さな農村で暮らしていた。
1942年、ドイツ軍によって村を襲撃され、ただ一人生き残ったセラフィマは、続いてやってきた赤軍の女性兵士・イリーナに弟子として拾われる。
同じような境遇の女性たちの集まる訓練校で、イリーナに狙撃兵になるべく厳しい教育を受け、実戦に送られる。
死と隣り合わせの狙撃、初めは人に向けて銃を撃つことに抵抗を感じていたが、そのうち、狙った通りにフリッツ(敵のドイツ兵)を狙撃することに高揚感すら覚えるようになるセラフィマ。
村で母を狙撃したドイツ兵・イェーガーに復讐することを目標に突き進む。


戦争は悲惨だ。
いつも思うのは、「戦争しよう!」と決めた人が最前線で戦えばいいのにってこと。
安全な場所からあれこれ指揮しているのってずるい。
大抵、最前線で戦う人は、戦いたくて戦っている人じゃあないよね。
権力に支配されて、仕方なく戦っているもんだから、さらに弱い立場の敵国女性に対して戦利品のようにひどい仕打ちをするのだろう。
さらに、この小説で知ったのは、性欲よりも怖い気持ち。
集団心理に逆らえないということ。
一人なら倫理的に考えられることが、集団になることで逆らえないどころか、正当化されてしまう心理。
極限状態では、誰もがそうなってしまうのか。
あの優しかった幼馴染のミハイルまでもがそういう行動にでてしまったのを見かけたセラフィマは、どんな気持ちで彼を狙撃したのか、と思うとやりきれない。

戦争とはいえ、任務とはいえ、たくさんの人を殺してしまうことになる狙撃兵。
戦争が終わった後、どう生きればいいのか?
幸せになれるのか?
戦争で死んでしまった人もかわいそうだけれど、生き残った人もそれぞれに苦しみを抱えて生きてゆくのだものね。

2024年の今も、戦争をしている国がある。
早く安心安全な生活が取り戻せることを願うばかりである。




2024/06/30

豊臣家の人々/ 司馬遼太郎

 




誰だか忘れちゃったけれど、小説家の人がオススメしていたので、図書館で借りてみた。

パッと開いて驚いた。

1ページが上下2段に分かれている!

良いのよ、話が長いことは全く。

問題なのは、そう、思わずつぶやいた「文字、小さッ」ってこと。

近眼の私は、老眼になっても、メガネを外せば近くを見ることに不自由はなかった。

ところが、60才を越えたあたりから、近くのもの、小さい文字が見にくくなってきたのだ。

なので、この『豊臣家の人々』も目の調子の良い時でないと、読むのに疲れる。

長時間読めない。

読書は生涯の趣味に出来ると思っていたが、不安になって来たぞ。

結局、貸し出し延長までしたのに、半分までしか読めなかった。

なーんて、老眼のせいにしているけど、1ヶ月で半分って、怠慢だったに他ならないのだわ。

豊臣家の人たち一人ひとりにスポットを当てた短編集でなかなか面白かったので、また後日、借り直してみようかな。(なるべく若いうちに・笑)





2024/06/01

下町(ダウン・タウン)/ 林芙美子



健康のために、ついに、運動を始めた。

天候に左右されると続けられない気がしたので、何年か前に購入して今は埃をかぶっている踏み台昇降の台をひっぱりだしてみた。
そしてBGMの代わりに、らじる★らじるでNHKラジオの「朗読」を聴くことにした。

主人公は、戦後、夫の帰りを待ちながら、まだ幼い息子を連れてお茶の行商をする『りよ』。
不安な毎日をやっとの思いで暮らしていたが、ある日、行商先で親切な男『鶴石』に出会い、ポッと小さな明かりが灯ったような気持ちになる。
息子もなつき、ふたりは次第に惹かれ合う。
だが、りよには夫がいる。
いつ帰るのかわからない夫がいる。
りよの心は揺れ動く。

そうこうしているうちに、鶴石が事故死してしまう。
突然の出来事に、呆然とするりよ。
不安な日々に逆戻りではあったが、そうも言ってはいられない。
また、行商に出る。
「静岡のお茶はいりませんか?」


戦後の混乱の中、女性が幼い子を連れて生きていくことは相当大変だっただろう。
その中での鶴石との出会いは、どれだけ心休まる出来事だったかと思うと、彼のあっけない死は、りよの心の支えをポキッと折ってしまうのではないかとハラハラした。
しかし、ぬくぬくした時代を生きる私の心配は無用だった。
儚そうなりよの中に、母の、そして、その時代の女性たちのたくましさを感じた。



2024/05/31

諸葛亮(上・下)/ 宮城谷昌光


 

三国志の漫画を読んで、軍師・諸葛亮に興味が湧いて探すうちに見つけたこの本。
作者があとがきで書いているように諸葛亮は、通俗小説『三国志演義』でスーパーヒーローに仕立て上げられたらしく、正史『三国志』とは少し違うらしい。
横山光輝の漫画は正史が基本だったような気がするけれど、それでも大活躍だった。
それに比べてこの『諸葛亮』は、やっぱりちょっと物足りない。
「実像から遠くないところで小説を書きたい」という作者なので、これが諸葛亮の本来の姿なのかもしれないね。子ども時代や、叔父・諸葛玄と別れるところまでは「諸葛亮の小説」っていう感じだったけれど、その後はあまり孔明にスポットが当たっておらず、三国志を読んでいるようなもの?という気持ちになった。

しかし漫画には出てこなかった、妻や子(実子、養子)がいたことや、自身は両親を早くに亡くしていたこと、諸葛玄の勤務先で知り合った岱(たい)と生涯信頼できる関係であったこと、街亭の戦いでの馬謖(ばしょく)への期待感からの無念な想いなどを知ることができてよかった。



2024/04/27

舟を編む/ 三浦しおん



以前に読んでなかったっけ?

映画を見ただけだっけ?

記憶が定かじゃあないのだが、今回読もうと思ったきっかけが、NHKプレミアムドラマ。

映画とは違って、もう一人の編集部員・岸辺みどり(池田エライザ)が主人公である。

岸辺の生い立ちや、編集部員としての成長や、製紙会社営業マン宮本(矢本悠馬)との絆が丁寧に描かれていてとても良かった。


正直言うと『舟を編む』の中で岸辺みどりという登場人物は印象になかったので、新しいキャラかと思ったが、今回原作を読んでみたらばきちんと存在していたし、Wikipediaで調べたら映画では黒木華さんが演じていた。

たぶん、映画だけ見て原作は読まず、スポットの当たらない脇役の岸辺みどりは私の頭の中からスッポリ抜け落ちたのだと思う。


映画よりも断然、今回のNHKドラマの方が良かった。

保存版にしたいくらいに、だ。

全10話のドラマだから、2時間そこそこの映画より丁寧に描くことができるので、当然かもしれない。

さらに言えば、原作よりもNHKドラマの方が良いくらいだった。

たぶん原作は、辞書編纂ということにスポットを当てているが、ドラマではその中のひとりにスポットを当て、ヒューマンドラマになっているから感情移入できたのだ。

脚本と役者さんたちの力も大きいのだろう。


なんだか、ドラマの感想になってしまったが、本書ももちろん良かった。

こんなふうにして辞書って作られるのだなあとわかったし、辞書となる用紙もこんなにこだわりがあるのだねって驚いたし、確かにあの薄い紙は、すごい。

「ぬめり感」というのも、そうか〜って感心した。


三浦しおんさんには、スピンオフで登場人物それぞれを主人公にした小説を書いてみて欲しいかな。


そうそう、原作を読んで思ったのは、馬締光也の妻・林香具矢役は、映画の宮崎あおいさんより、ドラマの美村里江さんの方がイメージかな♪


2024/03/09

心理試験 / 江戸川乱歩


 

江戸川乱歩作品にハマっている。

『人間椅子』をNHKラジオの朗読で聞いたのが、江戸川乱歩との出会い。

もちろん、名前は知っていたし、アメリカの小説家エドガー・アラン・ポーがペンネームの由来ってのも聞いたことがある。

そういえば、ユーミンのペンネーム?は呉田軽穂(ハリウッド女優グレタ・ガルボから)だったわね、関係ないけど。

私は子供の頃から読書好きで、推理小説も好んで読んでいたのに、何故か江戸川乱歩は全くノーマークだった。

それが還暦も過ぎたおばさんになってハマるっていうね。

何かね、語り口が良いよね。

文章のテンポとか。

余計な事は省いた感とか。

もちろん、物語の内容も、おもしろい。

この『心理試験』も、あれこれ綿密に計画を立てて実行に及んだ真犯人を鮮やかにやり込める痛快さがある。

私が今のところ読んだのは「人間椅子」「二銭銅貨」「心理試験」と短編ばかりなのだけど、長編小説は江戸川先生、お書きなのかしら?

いろいろ読むのが楽しみだわ〜。





2024/03/08

二銭銅貨 / 江戸川乱歩

 世間をにぎわす紳士泥棒なる大泥棒が盗んで隠した大金を、主人公と同居する友人が探し当てて、大得意になって経緯を話すのだが、実は主人公の仕組んだドッキリだったって話。

ま、この友人、めちゃくちゃ気の毒。

探し当てた金はただのおもちゃの紙切れだったし、それよりも友人の手のひらで転がされ、挙句に鼻をへし折られるんだもん。

私だったらもう友達ではいられないね。

しかしあの手品の道具みたいな二銭銅貨はどこから手に入れたのか?

思わせぶりなふうで終わっていて、やっぱりこの主人公の男、ちょっといけ好かないわね。


2024/03/02

ソラシド / 吉田篤弘

 いやあ、出だしの時代背景や主人公の職業から、てっきり吉田篤弘さん自身のことを綴っているエッセイかと思って読み進めていた。

ら、小説だったのね。

1986年当時にいたという女性2人のジャズバンド『ソラシド』を追う主人公の話。

主人公は若かりし頃、ダブル・ベース(コントラバス)を偶然ゴミ置き場で拾い、あまりの大きさに「エレファント」と名付け、一人練習していた。

『ソラシド』の薫もダブル・ベースの奏者ということで、興味が湧いたのだった。

しかし、レコードも出したことのないマイナーなバンドで、たま~に雑誌の隅に紹介が載るくらいなので、追跡は困難を極めるのだが。

あるとき、『ソラシド』が映画の音楽を担当したことがあると知り、そしてまた、その映画を保管している映画館を付き止め見に行くのだが、なんとそれはサイレント映画だった!

まあ、このくだりは、私の中でめっちゃ盛り上がって、そして、えええ~~~っ?!とジェットコースターのように急降下したよね。笑

だって、どんどん謎の『ソラシド』に興味が湧いてきて、それは、やっとの手がかりだったんだもの!

そんなこんなで、吉田作品にしては、一気にぐいぐい読める話だった。

いつもなら、文章を味わって読む感じなんだけどね。

これはちょっと、ミステリー小説っぽい感じだったから。

冒頭はちょっと退屈だったけど、どんどん面白くなってきて★5つ!



2024/02/20

沈黙/遠藤周作

 読み終わってから時間が経ってしまった。


結局、主人公のポルトガルからやって来た宣教師は、転んじゃったんだよね。

皆がこんなに苦しい思いをして信仰を貫こうとしているのに、神は何も導いてくれないって。

多分、信仰心のある人がこの小説を読むと、きっと深いんだろうけれど、全く信心のない自分にとっては、正直、そこまでしなくてもさ、っていう部分が多々あって、ただただ重い。

信仰によって救われるのか?救われないのか?

よくわからんな〜。


2024/02/09

仮想儀礼(下)/篠田節子

 この本を読むきっかけとなったのは、NHKのドラマだった。

「金儲けのためにインチキ新興宗教を立ち上げた男二人の話」との番宣に、勝手にコメディドラマを想像していた。

初めの頃はその想像を裏切ることもなく、面白おかしく見ていて、原作を読んでみようと思い、図書館で借りたのだった。

ところが次第に深刻な話になって行く。

大物政治家、大手宗教団体の教祖、怪しい古美術商たちの悪事に巻き込まれ、聖泉真法会の大きなスポンサーだった森田社長が手を引いてから、大勢の信者が脱会し、結局、当初からの女性信者が残る。

彼女らはそれぞれの悩みを抱えてやって来ていたのだが、次第に彼女たちの信仰がエスカレートしてゆき、教祖・桐生慧海をも超えてしまう。

元々、似非教祖なので仕方ないが、桐生の作った偽宗教の核を彼女らが埋めてしまったのだ。

信仰は怖い。

自分の信じることが正義と思い込んでいるので、側から見ると、おかしいとか社会に反しているとか、そういう事に気づかない。

祈りながらトランス状態に入ってしまうと、自分たちや身近なひとを脅かす「悪」を排除する為に、暴力行為も犯してしまうのだ。

もちろんその行為も彼女らの中では正当化されていて、悪気は全くない。

桐生慧海自身も集団暴行を彼女たちから受け、拉致され、最初は逃げ出すことを考えていたけれど、そのうち、自分の起こしたインチキ宗教に彼女たちを巻き込んでしまったことを後悔し、彼女たちの業を引き受けることを決意する。

下巻はとにかく凄まじく、一気読みだった。

壮絶な物語だ。

信仰は怖い、のか?

人間の心の弱さが、怖いのかもしれない。

誰しも、そういう状態に陥らないとも限らないと考えると…。

2024/02/07

仮想儀礼(上)/篠田節子

 元都庁職員・鈴木正彦と元ゲーム会社の契約社員・矢口の二人が、金儲けのために新興宗教・聖泉真法会を立ち上げるところから話が始まる。 

御本尊は矢口が作ったワイングラスに粘土を貼り付けた張りぼてで、これにこっそり水を振りかけて仏の涙に見せかけたりのお粗末さで、いつ彼らの正体がバレるのかと思っていたが…。

教祖となった正彦(桐生慧海)が、教祖というより元行政担当の知識で人々の悩みごとにある意味真摯にアドバイスをしているうちに、たまたま悩み事が解決したという人々が信者になっていく。

そのうち、食品会社の社長が熱心な信者のひとりに加わったことで、その支援を受けて教団はあれよあれよという間に大きくなる。

似非教祖の正彦はインチキ宗教家なのに、お布施の強要はしないとか、心の中で信者の値踏みをしていても、困っているとわかると助けようと奔走するとか、根は真面目で良い人なんだろうなと、つい、好感をもってしまう。

しかし、教団が大きくなるにつれ、二人の力の及ばない大きな波にのみこまれ流されて行く。

次から次へといろいろ事件が起こって、聖泉真法会はどうなってしまうのか、とても分厚い本だけど、時間を忘れて読みふけってしまう!

寝不足になる…。



2024/01/20

沈黙/遠藤周作 (〜P121)

 ランチタイムにKindleアプリで読書をしているのだけど、社食のうどんを前に、今日は何を読もうかなあと考えていた。

今、読みかけの本は2冊。

遠藤周作の『沈黙』と、吉田篤弘の『ソラシド』。

ちらっと迷ったけど、『沈黙』にした。

『ソラシド』は夜寝る前にも読めるけど、『沈黙』は読んだら悪夢を見そうだから。

それくらい、キリシタンへの弾圧、拷問がひどくって、人間が人間にすることなのか?ってそれはもう、恐ろしい。

穴掘って、肥入れて、そこへ逆さ吊にするとか、海に立てた棒にキリストさながらくくり付けて、じわじわ命を奪うとか…。

『沈黙』はキリスト教を禁じていた頃の日本に、遥々、危険な航海をしてまでもやってきたポルトガル人司教の話。

司教は「こんなに信徒が苦しんでいるのに、神は何も仰らないのか…」と苦悶する。

無宗教の私は、そんな、真正面からぶつからずとも、転んだ(棄教すること)ふりをして、また、布教の機会を窺えばいいのに、とか思うけど、そういうもんじゃあないのだろうね。

今まだ半分読んだところで、ついに、役人に見つかって司教がとらえられちゃったんだよね。

で、「転べ」と迫られているところ。

しかも、転ばないなら一緒に捉えられた村人を穴吊の刑に処するって脅されているのよ。

ひどい。

明日のランチタイムも『沈黙』に決定だわ。

© BOOKS
Maira Gall